
相続が紛争の種に
誰しも自分が亡くなったあと、家族がその相続財産をめぐって争ったりいがみ合ったりすることは避けたいと願っています。資産を残す方がよいのか残さない方がよいのか、非常に難しい問題です。
私がその相談者Mさんと初めて面談をしたのは、お父さまが亡くなられて数カ月後のことでした。お父さまは家族のためにコツコツと資産をつくり、人気のエリアに一棟の収益マンションを所有するような方でした。相続手続きはお父さまが生前に遺言書を作成していたこともありつつがなく終わるはずでした。しかし、遺産分けの手続きを進めていくうちにMさんはあることに気づいてしまいます。お父様の残した資産のほとんどが長女であるお姉さんのものになっているということに。
Mさんは独身で実家に住み、仕事をしながらご両親の介護をして過ごしています。お姉さんはすでに結婚し子どももおり実家とは相応の距離感でのお付き合いになっているようでした。Mさんの心配事は、今回の相続でお母さまにはほとんど資産が残されていなかった。これからお母さまも年齢を重ねていき、ゆくゆくは施設での生活を考えていかねばならないのにどうしたらいいのか?ということでした。
資料を見せていただくと確かにお母さまの相続された資産は遺留分にも満たないものでした。Mさんはご自身の資産からお母さまの生活を支えることは構わないと覚悟していますが、やはり不安が大きくお姉さんに対してお母さまの遺留分を請求するかどうか迷っているということでした。遺留分とは遺言書などによって相続する資産が少ない場合、最低限保証された引継ぎ資産の割合のことになります。このケースであれば配偶者であるお母さまの遺留分は相続財産の4分の1となります。また、遺留分の請求ができるのは遺留分侵害があったことを知ってから1年ですので、この時点でリミットまで1か月、あまり時間がありません。
遺言書の内容を知った後、Mさんはお姉さんとお母さまへの生活援助について何度も話し合いを行い、遺留分請求を行わないのであれば月に相当額の援助を行うとの合意はしているようでした。しかし、それは口約束に過ぎずMさんとしては将来のことを考えてお母さまには遺留分請求をして欲しいようでした。ただ、当事者であるお母さまは相続のことで揉めることを嫌がり、結論がでないまま時間が過ぎてしまい期限が来てしまいました。
Mさんとの話の中で、お父さまは将来お母さまに相続が起こった時に、子どもたちが困らないように二次相続を考えてこの遺言書を残したのだろうとのことでした。しかし、何らかのアドバイスを得ていたのか、その資産は生前贈与も含めてお姉さんとその子どもたちに過分に与えられてしまい、お母さまを含めて他の家族には不公平感しか残らない内容となってしまいました。お父さまが望んでいたのは果たしてこんな相続だったのでしょうか?お母さまに生活の不安を感じさせるようなことをしたかったのでしょうか?
Mさんは入院されたお母さまを支えながら、これからの生活を考えて高台に建つ自宅を売却する準備を始められました。お父さまの相続で悩み苦しんだMさんが、一日も早く穏やかな日常を取り戻せるよう願わずにはいられません。